研究の背景
近年,教育現場における多様なニーズに対応するため,米国やカナダ,オーストラリア等の高等教育機関においては,コース管理システム(Course Management System, CMS)の導入が急速に進んでいます.CMS は高等教育機関等における教育・学習活動を,講義時間外も含め,IT により総合的に支援するためのシステムで,米国におけるCMS の導入率は,すでに80%を越えるとともに,33%の講義等で活用されており,高等教育機関での教育・学習活動に不可欠なシステムとして発展しつつあります.
我が国においても,学生の学力低下に伴う補習教育,社会人を対象にしたリカレント教育・生涯教育など,教育の多様化に合わせ,CMS の導入は今後急速に進むと考えられます.WebCT などのベンダー製のCMS を導入した教育活動が高等教育機関で試みられていますが,米国と我が国の文化および教育・学習スタイルの違いへの対応が必要なことから,導入に際して様々な工夫が必要となっています.また,携帯端末を利用したモバイルインターネットや低価格ブロードバンドなど,我が国の特徴的なIT の活用により,いつでもどこからでも誰もが教育を受けられるというユビキタス環境下での大学教育を可能にするCMS の開発も重要になっており,米国のCMS の動向を注視しつつ,我が国の教育現場で求められる次世代のCMSを探求することが現在求められています.
一方,CMS に関する標準化も始まっており,米国では,IMSグローバル・ラーニング・コンソーシアムによる教材・テストなどのコンテンツに関する標準化,またMITのOKIプロジェクトなどによる機能面での標準化が行われていますが,これら標準規格の利用は今なお限定的であり,普及のためには詳細化・規格の再検討が必要な状況にあります.
このような流れの中で,OKI 準拠で実際に運用できるシステムを目指して,2004 年1 月にミシガン大学など4 大学の共同で「Sakai プロジェクト」が開始されました.このプロジェクトは,各大学が個別に開発してきたCMS 関連のシステムを統合し,2005 年秋からは,4 大学が同時に全学的なシステムとして運用する計画になっており,北米を中心とする75を越える大学(2005年6月現在)が,大学間連携によるCMS 開発を通じたオープンソフトウェアの発展と共有を促す大きな動きが生まれています.IMS には,国内から先進学習基盤協議会(Advanced Learning Infrastructure Consortium, ALIC)が参加していましたが,ALIC 自体の活動が2004年度末を持って終了しています.また,OKI プロジェクトに参加している国内の大学はなく,日本からの貢献が必要な状況です.本プロジェクトではSakaiプロジェクトに参画するとともに,米国等における動きと協調できるオープンソースCMSの研究開発拠点を国内に形成します.
また,講義を撮影記録してe-Learning 用コンテンツとして利用する試みは多くみられますが,特に日本の教育は講義を中心としたものが多いため,教材開発の容易さからみても受け入れやすいアプローチです.従って,講義室以外の任意の環境で任意の時間に講義を基にした学習ができるようにする上で,CMS における講義コンテンツの獲得・配信・提示のための技術開発の意義は大きいといえるでしょう.
このような背景の下,我々は「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築」研究開発課題の一つとして「ULANプロジェクト:ユビキタス環境下での高等教育機関向けコース管理システム」を開始します.